新型コロナウイルス後の世界と働き方

どうやって規格外の人材と共存するか

板倉 リモートワークが進んで、ジョブ型への移行が今後より進むであろうと言われています。年功序列はどんどんなくなり、人事制度もジョブ型になってくる。そのような移行が進む中、弊社でも準備を進めています。それぞれのジョブ・ディスクリプションや目標をしっかりと決めて、あるいは管理職であれば、PL(損益計算書)によって責任の範囲や大きさを全て数値化して、それで給与も決めていこうというチャンレンジを始めていますが、そういう状況に対しては、どうお考えになられますか?

池上 ジョブ型は、能力の高い人にとってはいいかもしれませんけれど、9時から5時まで働いていればいいという話ではないでしょう。そうすると、これだけのことを数値を決めてやって下さいと言ったら、無制限の長時間労働になり兼ねないですよね。

板倉 そういう懸念もあり気を付けなければなりませんが、メンバーシップ型は組織に対するロイヤリティであったり、集団行動、あるいは忖度のようなことが求められ、長時間労働になっているケースも見受けます。

増田 私は、副業はすごく人生にとってプラスになると考えています。1つの仕事をするにしても、別の何かに興味があって取り組んでいれば、それがいつしかお互いに影響しあって、いいものが生まれると思うんです。でも、それは自分の中で積み上げるものであって、人から言われてやることではないかもしれません。もちろん、みんなにわかり易い基準は、評価をしたり、給与や対価のために、目安は必要かもしれません。けれど、その中で何かをしていても、結局は、枠組みの中の話なんです。私みたいにその枠組みが合わない人間はいられなくなってしまう気がします(笑)。

池上 規格外の人材を許容できる組織風土が求められるんでしょうね。

増田 規格外の人を信頼する環境が必要です。ただ、その信頼を何で担保するかが難しいところでもあると思います。私は、フリーランスを長く続けていますから、その積み重ねがあって、今、仕事はできてはいます。けれど、それが若い方や、まだそんなに経験のない方の場合、その人をどう評価するかは、ある程度の目安があった方が、使う側は使い易いと思います。

板倉 多様性が職場に必要で、当然、ダイバーシティやインクルージョンといった言葉があって、そういう人たちもフリーランスの方たちとも一緒に仕事をしたり、仕事の紹介もしています。しかし、まだまだ現実とはギャップがありますね。でも、世の中も働き方もどんどん変わっています。それに合わせて、変革を進めていかないと、時代遅れになってしまいます。ということで、弊社も副業はOKなんです。

池上 副業が本業にどんな影響を与えていますか?

板倉 大きいのは、1つの会社だけでずっと働いたときに、価値観をはじめ、いろいろな世界観が1つの会社のものだけになってしまう。そこで副業をすることで、刺激を受け、新しい情報を得て本業にも活かせるようにという期待です。今、それが本当に役に立つのか検証中です。

池上 我々の時代は、職務専念義務なんてものがあったりして、本業以外の副業は就業違反だという会社がほとんどだったのに大きく様変わりしていますね。

ビジョンというものをどう捉えるか

板倉 弊社は、5年ごとに中期事業計画(中計)を打ち出しています。今、2021年からの新しい中計をつくっていて、戦略を考えています。その中のキーワードに、人財の躍動化、社会に変革を起こそう、そしてビジョンマッチを掲げています。ビジョンマッチというのは、新しくつくった言葉で、その内容を、みんなで熱く議論しているところなんです。今までは、転職支援において、条件やスキルのマッチの方が主体でした。特に派遣はスキルマッチがメインです。我々の正社員の転職支援は、その方のライフビジョンなども聞いた上で進めるんですけれど、やはり条件マッチが求められる傾向が強いです。これを、人財側もライフビジョンやキャリアビジョンをしっかりと持っていただくために、そのためのサポートとアドバイスをして、企業側のビジョンとしっかりとマッチした紹介をしたいと考えています。その理由は、ビジョンが合っていれば、人はやりがいを持ち、活き活きと躍動して働けるだろうと考えてのことです。

増田 仕事をする上で、誰かの役に立っている実感は大事な気がするんです。それを感じられるか、感じられないかで、仕事が続けられるか、続けられないかが決まる気がします。

池上 生きがいって、自分の仕事がどこかで誰かの役に立っていることだよね。

板倉 人間の最大欲求は、社会の役に立って感謝されることだと言われますけど、本当にそうだと思います。

池上 確かにそうだよね。例えば、ビジョンとしては、「それは社会のためになるか」なんていうシンプルなものの方がいいかもしれません。何かをするとき、常にそれを考えれば、例えば、人材のマッチングも、その人たちにとっての幸せですし、社会のためになっていますよね。例えばですけど、そんなビジョンであれば、いろんな仕事ができるし、変な仕事に手を出さないで済むんじゃないかと思います。

板倉 広く言うと、働くことを通して、みんなを元気にしましょうということで、そのためのビジョンだと考えています。

増田 何か立ち返れるものがあるといいかもしれないですね。

板倉 羅針盤のようなものですね。

池上 正に迷ったときに必要なものですよね。

増田 今、どうしたらいいんだろうと思ったときに、その言葉であり考え方が道標になればというふうには思います。

池上 それが結果的にコンプライアンスにも繫がるんじゃないですか。

人間だからこそできる仕事を

板倉 個人がライフビジョンやキャリアビジョンをしっかり持っていくということはどう思われますか?

池上 ビジョンを持って働いてきたとは、私も言えないですから(笑)。

板倉 そうですか。今、テレビ番組や本もたくさん出されていて、更には増田さんとYouTubeのチャンネルまで開設なさっています。大学でも教えられていて、教育にも関心が強かったのではないのですか?

池上 いえいえ、全然考えてないですよ。教育というより、私は、ただの説明したがり(笑)。

増田 池上さんの教えたがりはキリがなくて(笑)、止めないと終わらないんです。

池上 単にそれだけですから(笑)。NHKで記者をしていましたけれど、解説委員になって自由に取材をしたいと思っていたら、「解説委員になれない」と言われたので、この組織にいても仕方がない、外に飛び出せば自由に取材ができるぞと、後先のことを何も考えず、飛び出しただけです。NHKを早期退職して、その後、同期が集まったとき、辞めてどうだと聞かれて、のびのびと仕事ができるようになってうれしいと言ったら、NHKにいるときから勝手なことをしてたじゃないかって言われました(笑)。

板倉 実は変わっていなかったと。ビジョンというより、芯に揺るぎないものがあったということですね。それも池上さんのビジョンだったのではないでしょうか。

池上 揺るぎないかどうかはともかく、したいことをしたいということでしょうね。

板倉 我々が、転職支援をする方たちにビジョンをというのは、目標を持ってもらうことだけを目指しているのではなく、それぞれの方が気づいていない大事なことや、ぼんやりと考えていたり、実はこうしたいといった希望や思いを掘り起こすことで、求職者が望んでいる将来に沿った支援をしたいとの考えからです。そうすることで、結果的に求職者も企業にとってもハッピーな状況が生まれるのではないかと考えています。

増田 私の場合は、これをやりたいと思ったから、次をやる。その繰り返しだと思います。ただ、取材という仕事に出会ったことで、こんなにおもしろい仕事が世の中にあるんだという思いはあります。それを続けたいという思いで、今日まで続けてきた感じです。

池上 その自分がしたいことがなかなか見つからない人もいるということなんだろうね。

板倉 そこで以前より多様な働き方ができるようになり、選択肢が増えてきたことで、一つ懸念していることがあります。

池上 と言いますと?

板倉 マーケティングの理論で、人は、あまりに選択肢が増え過ぎると、選べなくなるというものがあります。

池上 「選択のパラドックス」ですね。選ぶ項目が増えれば目移りして、今回はやめたとなりますけど、働き方は、やめたにはなりません。この中から選んで下さいといっても、自分が好きなことをすればいいということですから、心配しなくてもいいのではないでしょうか。

増田 たくさんあると、どれを選んでいいかわからなくなる人もいるとは思います。人間って決められたことをした方が楽ですから。

池上 そういう人にとっては、それはそうだ。やはり人によるのかな。

増田 経験があれば、これがいいと選べるかもしれませんけれど、初めて何かをするとき、選びにくいと思う方もいるでしょう。ただ、例えば、子育てをしていて、働き方を選んだり、自分に合ったものが選べれば、それに越したことはないです。

池上 レストランのメニューで言えば、メニューがすごくたくさんあると、目移りして、なかなか決められないでしょう。でも、ランチだと、プリフィックスで、この中から選んで下さいと、選択肢がかなり少ない。だからプリフィックス型の働き方なら、多くの人に受け入れてもらえるのかもしれないと思います。

板倉 我々の紹介も実はそうで、なぜ転職希望者へのインタビューをするかというと、ビジョンとも関係するのですが、まだ言葉になっていないけれど、どうも話を聞いていると、この人は、こういう働き方を望んでいるんだということを明確にしていくためです。そのビジョンや希望をマッチングして、求人を絞り紹介することをしています。

池上 働きたいんだけど、自分が本当に何がしたいか、何に向いているかを自覚していない、できない人に、インタビューをしていると、わかっていくわけですね。

板倉 我々は、仕事や転職に関しては、多くの方に会ったり、様々なケースや厖大な情報に日々触れています。ですから転職希望者の方のお話を聞いていると、もしかしたら、こういうものが合うのではないかが、わかってくるというと、少し偉そうですけれども、そこをアドバイスする仕事をしていると思っています。ですから今、その役割は、AIをはじめ、我々もデジタルトランスフォーメンションなどにも取り組んでいますけど、まだ追いついてこられないと考えています。人財紹介業の仕事も、デジタルを使ってマッチングしている会社は既にありますから、そちら側へ流れていくかもしれませんが、私としては、アナログを使ってしぶとく生き延びていこうと思っています(笑)。むしろみんながそっちへ行くのなら、人間ができること、正に五感で得られるところも取り入れて、キャリアアドバイスをしていく。そういうところが逆説的に強みだとも思っています。

池上 AIに指図されたくはないですよね。

板倉 AIに仕事や会社を決められても、「はい、わかりました」とはならないですよね。今後、AIの発展などで、今ある多くの仕事がなくなっていくと言われていますが、どうなっていくと思われますか?

池上 それはなくなると思いますけど、逆に今はない仕事や会社はいくらでも出てくるわけでしょう。だって私が子供の頃、YouTuberなんて仕事はなかったですから(笑)。

板倉 確かにそれはそうですね。

池上 想像すらしなかったわけです。インターネットなんてなくて、大学の頃、コンピュータプログラマーやSEという仕事があるらしいぐらいでしたから(笑)。逆に私が小学生の頃、バスの車掌さんという仕事がなくなりました。

増田 キップを切ってくれたりしたんですよね。

池上 そうです。バスには運転手さん以外に車掌さんが必ず乗っていたのが、運転手さん一人になり、今ではワンマンが当然です。あるいは駅の改札のキップ切りの人がいなくなったでしょう。それが自動改札になった。だから、なくなる仕事もありますけど、また生まれる仕事もある。新陳代謝だと思います。

増田 もちろん、とって代わられてしまうところもあるのではないかと思います。けれど、人間のすることですから、人間が相手をしないと、なかなか行き届かないことも出てくるのではないかと思います。

池上 だって、AIが、こういう本が売れますなんて予測して、その通りになるかと言えば、そんなことできないわけです(笑)。

板倉 このコロナ禍だって誰も予想もできなかったわけですからね。本日は多岐にわたり示唆に富むお話を伺えました。ありがとうございました。

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