精神障害の労災認定に「パワハラ」 評価表の具体例とは

2020年6月、精神障害の労災認定基準に「パワーハラスメント」(パワハラ)の項目が追加されました。「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)の施行に合わせた改正で、ストレスによる精神障害が職場で増えてきていることが背景にあります。

認定基準はどのように変わったのか。労災認定の基準と評価表などについて解説し、企業が留意すべきポイントを紹介します。

あわせて読みたい
「パワハラ防止法」2020年6月施行。パワハラの境界線は?

パワーハラスメント(パワハラ)の防止を企業に義務付けることが法律で決まり、2020年6月から施行されました。関心の高い「パワハラ防止法」について、ポイントや今後の動きを解説します。

「心理的負荷」とは? 労災認定の状況

労災認定基準などに登場する「心理的負荷」とは、生活の中でよく使われている「ストレス」のことです。

近年、仕事によるストレスが原因で発病した鬱(うつ)病などの精神障害が増えています。

過去5年間の推移をみると、令和元年度には申請件数が年間2000件を超えるなど増加傾向にあり、職場の身近な問題になっています。

精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移
  • 「脳・心臓疾患」の労災は、40代以上が大半を占めますが、精神障害は10代から30代の若い世代でも多いことが特徴。
  • 「脳・心臓疾患」の労災は、自動車運転の従事者などに偏在していますが、精神障害の労災では職種に大きな差はなく、すべての業種・業態の企業で留意しなくてはいけない課題。(厚生労働省 2019年度「過労死等の労災補償状況」による)

「精神障害の認定基準」とは

「精神障害の認定基準」とは、ストレスを起因とした労働災害を判断・認定する際に用いています。2001年に「脳・心臓疾患による認定基準」が改定され、主に時間外労働による過重労働を軸とした認定基準が示されました。

続いて2011年には、厚生労働省は労災基準について「ストレスによる精神障害」の認定基準を策定。「出来事の類型」や負荷の強度を「弱」「中」「強」で判断する具体例を盛り込んだ「業務による心理的負荷評価表」をつくりました。

精神障害の労災認定基準に「パワハラ」を明示

「パワハラ」を起因とした労働災害の増加を踏まえて、厚生労働省は「心理的負荷評価表」の内容を検証。

評価表の中に、従来まで明記されていなかった「パワハラ」を追加。「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」とする項目を加えました。

「パワハラ防止法」の施行と連動することで、労災請求手続きの簡素化や審査の迅速化を促しています。

※パワハラの定義は、下記の3点をすべて満たす場合です。
  1. 1
    優越的な関係を背景とした言動
  2. 2
    業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 3
    労働者の就業環境が害されるもの(精神的・身体的苦痛を与える言動)

「出来事の類型」に「パワハラ」を追加

「出来事の類型」は(1)事故や災害の体験、(2)仕事の失敗、過度な責任の発生等、(3)仕事の量・質、(4)役割・地位の変化等、(5)対人関係、(6)セクシャルハラスメント――の6類型に定義されていました。

今回、新しく「パワーハラスメント」を追加したことで、全体で7類型になりました。

パワハラによる心理的負荷を総合評価する5つの視点
  • 指導・叱責等の言動に至る経緯や状況
  • 身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度等
  • 反復・継続など執拗性の状況
  • 就業環境を害する程度
  • 会社の対応の有無及び内容、改善の状況

心理的負荷の強度、具体例「弱」「中」「強」

評価表は、類型ごとにストレスの強度を「弱」「中」「強」の3段階に分け、具体例を示しています。

新たに加わった「パワハラ」による心理的負荷も下記の3段階で評価します。

上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた

心理的負荷を「弱」と判断する具体例
  • 上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた場合
心理的負荷を「中」と判断する具体例
  • 上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃が行われ、行為が反復・継続していない場合
    1. (1)
      治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃
    2. (2)
      人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃
    3. (3)
      必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
心理的負荷を「強」と判断する具体例
  • 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
  • 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
  • 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
    1. (1)
      人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
    2. (2)
      必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
  • 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

上司部下だけでない、同僚による「パワハラ」も該当

「パワハラ」の定義に基づくと、「優越的な関係を背景にした言動」とあるため、上司部下の関係ばかりを想定してしまいがちですが、類型の中にある「対人関係」の中に、同僚間でも「パワハラ的行為」を認定する具体例が示されています。

同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた

心理的負荷を「弱」と判断する具体例
  • 同僚等から、「中」に至らない程度の言動を受けた場合
心理的負荷を「中」と判断する具体例
  • 同僚等から、治療を要さない程度の暴行を受け、行為が反復・継続していない場合
  • 同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を受け、行為が反復・継続していない場合
心理的負荷を「強」と判断する具体例
  • 同僚等から、治療を要する程度の暴行等を受けた場合
  • 同僚等から、暴行等を執拗に受けた場合
  • 同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を執拗に受けた場合
  • 心理的負荷としては「中」程度の暴行又はいじめ・嫌がらせを受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

企業が心がけるべき対応

「パワハラ防止法」では、企業側に相談窓口の設置や再発防止対策を求めるほか、行政の勧告に従わなかったときは、企業名が公表されることとなります。

中小企業は2022年4月から施行となりますが、「パワハラ」を追加した労災認定基準はスタートしています。企業の持続的な成長には「パワハラとパワハラ労災」防止の取り組みは重要で、不断の努力が必要です。

新たな「評価表」などを確認して、職場で共有しておきましょう。

最新のセミナー情報、コラム等を受け取りたい方は、下記からメールマガジンを登録してください。

コラム

コラム に戻る

欲しいのは「求職者」より「究職者」。専門性を追究したコンサルティングで企業の成長に貢献します

欲しいのは「求職者」より「究職者」。専門性を追究したコンサルティングで企業の成長に貢献します