精神障がいの方の就職状況と採用側の心がまえ

2021年3月に民間企業における障がい者の法定雇用率が「2.2%」から「2.3%」に引き上げられます。障害者雇用義務の対象として精神障害者が加わったのが2018年。それでもなお障がい者雇用がなかなか進まない現実があり、コロナ禍で障がい者雇用も厳しい情勢になってきています。

今回は、障がい者を雇用する本来の意義について考え、企業の人事担当の方へ、改めて障がい者雇用についての基礎知識と、企業が対応する際のポイントを、LHHで障がい者採用をサポートするコンサルタントが解説します。

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「障害者雇用促進法」における障がい者雇用と、精神障がい者雇用のポイント

障害者雇用促進法には、「すべての事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有する者であって、進んで対象障害者の雇入れに務めなければならない」と定められています。

そのための取り組みとして、事業主に対して従業員の一定割合以上の障がい者の雇用を義務付ける「障害者雇用率制度」があります。現状(2020年度はじめ)の民間企業の法定雇用率は「2.2%」ですが、これを2021年3月には「2.3%」に引き上げることとされています。しかし、2020年時点で法定雇用率を達成している企業の割合は48.6%しかありません。

2020年2月に発表された厚生労働省のデータ(「障害者雇用の促進について 関係資料」より)によると、何らかの障がいのある方は963.5万人。日本の人口約1億2600万人のなかで約1000万人というのは、決して少なくない数字です。

労働人口にあたる18歳以上65歳未満の在宅者は、身体障がい、知的障がい、精神障がい合わせて、376.5万人。そのうち身体障がいの方が約100万人、精神障がいの方が約200万人です。就職して仕事をしたいと希望する精神障がいの方は増え続けています。

LHHの障がい者雇用を担当するチームでは、日々企業から求人のご依頼をいただきますが、企業の多くはこれまで精神障がいのある方を新たに採用した経験が少ないのでどのような配慮が必要かわからない、そのため身体障がいの方を優先して採用したいと検討されています。

一方で、LHHに登録していただく障がいのある方は、精神障がいが70%、身体障がいが25%、知的障がいが5%という割合です。このような状況のなかで、法定雇用率を2.2%から2.3%に引き上げる時期にきています。それを達成するためには、精神障がいの方の雇用に積極的に取り組んでいただくことが解決策になると思います。

精神障がい者雇用で定義される病気・症状

はじめて障がい者を雇用する企業では、配慮のポイントがわかりやすいということから身体障がいの方を優先する傾向があり、精神障がいの方は「どんな仕事を任せればいいのかわからない」「サポートの仕方がわからない」という理由から敬遠されがちです。

すでに社内にメンタルヘルスの疾患で休職している人がいると、勤怠が安定しないなど、人事担当者が対応に苦慮している経験から、新規で精神障がいの方を受け入れることを躊躇する場合もあります。

精神障がいに該当するのは、うつ病、統合失調症、双極性障害、薬物依存、てんかん、高次機能障害、広汎性発達障害、アスペルガー症候群、学習障害、自閉スペクトラム症、注意欠陥多動性障害(ADHD)などがあり、下図のような割合となっています。

しかし、診断された病名・症状名だけがその人の症状かというと、そうではなく、障がいの度合いや内容は個人によって違うため、障がい名だけでは判断できません。また、精神障がいの場合は、後から発症・発覚することが多いため、社会人としての実務経験、専門スキルをお持ちの方も多くいらっしゃいます。そのため業務内容や環境さえ適合すれば十分に活躍できる可能性を秘めています。

障がい名でひとくくりにせず、自社の職種や業務内容、就業環境を理解したうえで、より適切なポジションを検討することで大幅に障がい者採用の可能性が広がります。

障がいについては「本人から説明をする」「担当医が就業上において気を付けることなどを意見書に書いてくれる」「障がい者をサポートしてくれる支援者と人事担当者がすり合わせをする」など、採用活動では多方面から情報を得られます。LHHでも自分の障がいにはどんな特徴があって、どんな仕事をしたいのか、どんなサポートを求めているのかをヒアリングして、企業に理解してもらえるよう伝えています。

精神障がいの方へ依頼する仕事の内容とフォロー体制

障がい者の就職活動も、一般の中途採用のプロセスと同じで、スキルや経験がある方は、それを生かして転職活動を行います。精神障がいの場合、健常者に比べて変化への適応度が低い、新しいことへの耐性が弱いという特徴があるので、これまでの経歴や得意なことをヒアリングして、できるだけ経験のある仕事や慣れている仕事からスタートしてもらうようにしています。たとえば、経理の経験がある方なら、経理系の仕事というように。そのほうが自信を持って働けて、長く続けられます。

障がい者雇用を率先して受け入れている会社では、ひとつの部署に所属させるのではなく、会社のなかの各部門から定型業務やオペレーション業務を切り出してもらって、よりマッチする業務を任せる体制を整えている場合もあります。

また、障がいのある方のために専門チームをつくっている大手企業もあります。精神保健福祉士やトレーナーと定期的に面談し、業務の理解度と環境への適応力に問題がないか確認しながら進めていくことができるのです。外部の支援員が付いている方は、本人、支援員、企業の3者で情報共有をしながらフォロー体制をとっているところもあります。

民間企業において、障がい者雇用がなかなか進んでいない現状とその理由

民間企業で障がい者雇用が進まない理由のひとつとして、採用しようと思っていても、「業務が切り出せない」「何を任せたらいいのかわからない」「どう接したらいいのかわからない」「事例がないのでイメージがつかめない」などの理由で一歩踏み出せないという企業が多いことがあげられます。

障がい者の法定雇用率を達成できているものの、障がい者雇用を上手に生かしきれていない実態もあります。

これからは、いかに障がいのある方を戦力化させていくかという取り組みが大事になります。社内で切り出した業務を障がいのある方に任せて、既存社員はその先の仕事をやっていくという考え方に変化していき、よりよく循環させていくサイクルをつくれるかが今後の課題になります。

世界的に見れば、そもそも障がい者雇用の制度があるのは、日本や韓国など少数の国だと聞きます。多くの国は、障がいの有無よりどんな能力を持っているかを重視して雇用しています。日本でも外資系企業からの依頼を受ける場合は、障がい者と健常者を区別して採用しないといわれることがあります。即戦力としてみなすので、もちろん、配慮すべき点は配慮しますがそれ以外は健常者と同等に業務を任せるし、評価もするという企業もあるのです。

コロナ禍でテレワークが進む、今の時代の障がい者雇用の進め方

2020年3~8月で解雇された障がい者は前年比で34.9%近く増えていて(厚生労働省調べ)、コロナ禍で障がい者雇用も厳しくなっています。対面で話せないと、体調が悪いなど困ったことに気付いてあげられないという難点はありますが、通勤による心身の負担が減りストレスが軽減したという声や、周囲を意識しないで集中できるため、在宅勤務のほうがむしろ働きやすいという人もいます。在宅でできる仕事がマッチすれば、活躍できるフィールドが広がる可能性もあります。

現在は企業側も新型コロナウイルスの感染拡大で混乱しているため、こんな時期に障がい者雇用をどう進めたらいいのかわからないという企業も多いと思います。しかし発想を変えれば、こんな時期だからこそ、在宅勤務で障がい者雇用をスタートさせることもできるでしょう。

特に20代、30代はオンラインへの適応力が高く、精神障がいのなかでも発達障がいの人は、自律しつつ高いIT技術を持っている人もいます。企業にお願いしたいのは、業務を洗い出して細分化し、在宅で頼める仕事を会社全体で明確化すること。それができれば、障がい者に限らずいろいろな方が仕事を得て活躍できるようになります。今後は、障がい者雇用においても、「在宅」がキーワードになってきそうですね。

まとめ

精神障がいのある方の採用は難しいと考えている企業や担当者に考えてほしいのは、手帳の種別や障がい名のみで考えず、一人ひとりの個人を見て採用してほしいということです。まだ障がい者を採用していない企業は、一歩進んで挑戦してほしい。これからは、障がいがあっても働ける場所を整えていくことが、日本の社会には必要になります。

交通事故、心臓発作、仕事が重なって精神を病むなど、誰もがいつ障がいのある身になるかわかりません。障がいのある方と一緒に働くことで、もし、自分が障がいを抱えたとしても、働いている人がいるから大丈夫だと安心できる社会、誰もが働く場において躍動できる社会に変革していきたいと思います。

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